本年10月5日、「福祉国家と基本法研究会」から「新たな福祉国家を展望する」という本が出版された。最初、同研究会から社会保障基本法 2011第一次草案が出されたとき、私は「理屈は分かるがこれは無理だ」と思った。
例えば、第15条(基礎的社会サービスの利用料無料)は「すべての人に不可欠な医療、介護、障害者福祉、保育などの社会福祉サービスにおいては、国及び地方自治体は、いかなる名称であっても、その利用料を徴収してはならない。この規定に反する、医療の、いわゆる「窓口負担」、介護保険における利用料、障害者福祉における利用料、保育における利用料などは速やかに廃止しなければならない」とある(この内容は本の中ではさらに発展させられている)。
2009年の政権交代直後ならまだしも、これが書かれた2010年秋は、民主党政権がすっかり「構造改革路線」に復帰していた時期。絵空事(えそらごと)と一蹴されてもおかしくない。
しかし、よく考えると医療費の窓口負担ゼロはヨーロッパの先進国では当たり前であるし教育も無料。かつて日本も健保本人、老人医療は窓口負担無料であった。
社会保障憲章 2011、社会保障基本法 2011は、「生活保障の諸領域、とりわけ社会保障についての哲学、原理、原則、ひとことで言えば、あるべき社会保障の輪郭を提起したもの」(P.2)とある。
東日本大震災を踏まえ、福祉国家型対抗構想が必要な理由を、1)構造改革政治に対する全体的対案の提示(P.16)、2)めざすべき福祉国家型地方づくりの提示(P.21)、3)構造改革を加速する民主党政権の政治への対抗(P.22)、4)運動の「たこつぼ」化を克服し構造改革の攻勢に連帯して立ち向かう(P.32)、と4つあげている。
考え方の基礎に日本国憲法があるが、国際人権規約、女子差別撤廃条約、障害のある人の権利条約、国際行動計画、EU基本権憲章、ILO条約などの「国際基準」(P.63)も基礎にして書かれている。
社会保障基本法 2011において、社会保障制度の範囲(P.180)は、1)所得保障、2)医療保障、3)保健保障、4)居住保障、5)障害のある人の生活保障、6)高齢者の介護・生活保障、7)子どもの発達保障・生活保障と、7つに分類されその原則が書かれている。
国、地方自治体、企業の責務(P.184)も書かれており、特に企業の社会的責務の中で、「税並びに社会保険料の負担という形でその責務を果たさねばならない」とある。7つの領域全部で社会保障を充実させるためには、豊富な財源が必要である。財源問題は応能負担の原則(P.151)が述べられている。原則(p.152)は、1)最低生活費への非課税と保険料免除、2)総合所得にたいする累進課税原則、3)企業の社会保障拠出・負担責任の強化。3)については、a)社会保険の事業主負担額の増、b)社会保障税、c)法人税をあげ、「消費税の社会保障目的税化」は社会保障理念に反する(p.158)としりぞけている。
著者らは基本法が「現在の政治的力関係の下では、当面立法化される展望は少ない」ことを認めている。「しかし基本法の制定とその諸原則の実現を掲げて闘うことで、その全体としての実現は無理でも、社会保障諸領域の運動の連帯をつくり、構造改革の攻勢を阻み、運動の力関係次第では特定の領域で構造改革に代わる対抗的制度を実現する指針ともなりうる」ことを指摘している(p.200)。
以上、かなり恣意的に抜き書きしてみたが、この本は現時点での「あるべき社会保障の輪郭」が分かりやすく書かれたものであり、社会保障に関わる人だけでなく、広く一般の人にも大いに読んでほしい本である。そして社会保障充実のために、各分野で「たこつぼ」化した運動でなく、構造改革の攻勢に連帯して立ち向かえるようにしたい。
そのうえで二つ要望をしたい。一つは「住民参加」の項を入れること。どんなにいい内容でも、与えられるものという発想ではうまくいかないであろう。医療の現場にいて感じることだが、いい医療実現のためには住民が適切に医療機関を利用する、健康づくりに参加するなど、住民との「共同の営み」が不可欠である。資源に限りがあることを考えると、社会保障従事者とそれを受ける人たち双方の協力が欠かせないと思うからである。「参加の原則」(P.100)という記載はあるが、法案そのものには書かれておらず、明確化を期待したい。
もう一つは、よりつっこんだ財源確保方法の提示とシミュレーション。「量出制入」(出るを量って入るを制す)を原則とすべき(p.151)、とはいえ、財源には限りがある。できれば少々荒削りでも数字があるとイメージがしやすい。今のままでは、やはり絵空事と片付けられる可能性が高い。
限られた財源の中でまずは何を優先するか? 私は「住み続けられるまちづくり(P.149)」「おたがいさま」が広がる環境づくりを優先したいが、これも住民参加で決めていくべきことだと思う。
この本が広く読まれ、今後活発に議論され運動が進むことを期待したい。
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